コーヒーには、“カッピング”という技術があります。
簡単にいうとコーヒーのテイスティングのことなのですが、このカッピングによって
コーヒーに触れていく、ということはコーヒーのことを理解したい、知りたい人にとっては
欠かすことはできない技術といえます。
SCAA方式とCOE方式
カッピングには大きく分けてSCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)方式とCOE(カップ・オブ・エクセレンス)方式の2つがあります。
基本的なやり方は同じですが、SCAA方式はクリーンカップ・スウィートネスの2項目がチェック項目であるのに比べ、COE方式は全ての項目を点数で採点する、という点と、SCAA方式はフレグランス・アロマの点数が加点されますが、COE方式は合計点に含まれない、という点で異なります。
その性質上SCAA方式は大きなロットをスペシャルティコーヒーかそうでないか判断するのに向き、COE方式はコンペティション等においてスペシャルティコーヒーの中でもトップクオリティのものを探すのに向いています。
それは上述したような採点方式の違いによるもので、同じコーヒーであれば一般的にSCAA方式の点数のほうがCOE方式よりも点数が高くなりやすいですね。
COE方式はSCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)やSCAE(ヨーロッパスペシャルティコーヒー協会)でも採用されている方式で、特別なことがないかぎりSCAJのカッピングセミナーはCOE方式で行われ、私はその場でカッピングについて学んでいるので、私がカッピングの話をするときはCOE方式のものに基づいて話をします。
カッピングでわかること
カッピングをすることでわかることが大きく2つあります。
1.生豆のクオリティ
これはある意味当然ですね。
特に品評会においては生豆のクオリティを重視してカッピングをしています。
2.焙煎のクオリティ
行った焙煎の結果がどうなのか、というのをチェック出来ます。
カッピングによって焙煎の検証を行うのは、特に自家焙煎店の品質管理
において非常に重要な意味をもっています。
この2つを総合して「カップクオリティ」ということもできますが、特にカッピングを始めたばかりの頃はこの2つのうちどちらをチェックするのか、というのに意識的でないといけません。例えば生豆のクオリティは高いのに焙煎がうまくいっていないコーヒーがあったとして、それを見ぬくことができなければいい生豆を買い付けることができないかもしれません。例えば偶然に生豆のクオリティの低さを隠した(できるだけ心地よい部分を強調するように焙煎して)焙煎されたコーヒーがあったとして、それを見ぬくことができなければ、同じ生豆を焙煎してもバッチごとにカップクオリティが異なってしまうことがあるかもしれません。
カッピングはフィルターを一切介しない抽出でコーヒーのテイスティングをします。
コーヒーのすべてが丸裸にされるのがカッピングですが、ちょっとしたマインドセットで評価が大きく狂ってしまうこともあるので、自分が今カッピングで何をしようとしているのか、という事には意識的でないといけないと思っています。
どうしてカッピングでなければならないのか?
カッピングによるコーヒーの抽出は、すべて同じコーヒーの量、同じ条件で行います。
そのうえフィルターを介する事が無いので、コーヒー焙煎豆の特徴がすべてカップにあらわれます。
それがカッピングを行うひとつの理由といえるでしょう。
カッピングだけがコーヒーの味をはかる唯一の手段というわけではありませんが、数ある抽出方法のうち、そのコーヒーをとことん分解して理解したい場合、私はまずカッピングから入ります。
ですから、THE COFFEESHOPで販売しているコーヒーは全て、私がカッピングしています。
そうしないと、私は自信を持ってお客様にコーヒーの事を説明できないからです。
コーヒーの味の表現について知りたい、という場合はカッピングを通して理解していくことが最大の近道だと思っています。
特にこれからスペシャルティコーヒーのビジネスに足を踏み入れようとしている人には、声を大にして「カッピングを覚えましょう」と言いたいと思います。カッピングによってコーヒーの特徴をつかむことができなければ、他のどんな抽出方法でもコーヒーの特徴をとらえることはできません。スペシャルティコーヒーを商品にしようと思っているなら、カッピングは必須の技術といえるまでになっています。
そしてカッピングの最大の目的は、同じ手段、同じコーヒーのプロファイリングの仕方を複数の人間で、しかも時によっては国境/人種を超えて共有する事で、同じ土台でコーヒーの話ができるようにすることです。
カップ・オブ・エクセレンスの場などはまさしくそうですよね。
最近ではコーヒー生産国の輸出業者だけではなくコーヒー生産者もカッピングを行うケースが増えていると聞きます。
同じ手段、同じ基準(厳密には自分の背景:好みも加味されるので完全に同じではないのですが)で同じカップを共有してコーヒーのクオリティの話ができるということは、カッピングが広まったことによる大きな功績といえるでしょう。
実際のところ、カッピングを一定以上理解されている人とコーヒーのことをお話するのはとっても楽です。
これは、エスプレッソを抽出するバリスタさんでもそうですし、コーヒーを焙煎している焙煎人さんでもそうですね。
同じ基準を共有しているからこそ、色々と踏み込んだところまで話ができるのです。
カッピングのときに注意すること
カッピングを始めたばかりのときは特に、基準がわからないので戸惑うことが多いと思います。
“4点:普通、5点:良い、6点:素晴らしい、7点:とても素晴らしい”
と説明されても、最初は「どういうこっちゃ?」、と思うでしょう。私もそうでした(笑)。
しかし、みかけの点数よりも大事なことがあります。いくつか注意したいことを挙げてみます。
1.点数を気にしすぎない
あまり気にし過ぎないのもそれはそれで問題なのですが(笑)、
“○○さん(有名カッパー)がn点つけているからn点でなければならない”
とか、
“同じコーヒーをカッピングしたら○○さんと同じ点数になった”
というのはまったく意味がありません。
点数はあくまで目安でしかなく、そうそう絶対的なものではありません。
カップ・オブ・エクセレンスの国際審査員平均点も、平均点ですから、
ひとりひとりの点数には大きく差が付いていることもあります。
個人的な体験からお話すると、カップ・オブ・エクセレンスのコーヒーを
用いたカッピングセミナーでは7 ~ 8割くらいのコーヒーは国際審査員平均と
近い点数(±1点くらいの範囲)になります。
コーヒーによっては±2 ~ 3点くらい違うこともあるのですが、
そういうものだと思っています。
点数よりも、もっと大事なことがあるのです。
2.6点以上をつけたら何か書く
私はまず、点数よりもプロファイルだと思います。
カッピングを覚えるのであれば、できればカップ・オブ・エクセレンスの現場で
使われているプロファイルをベースにするといいと思いますが、とにかく
まずは自分の言葉で、目の前のコーヒーのフレーバーを言葉にしてみることが
何よりも大事だと思っています。
特に自分が6点以上だと思った項目については、何かしら言えるようにしておきましょう。
なぜなら6点は“素晴らしい”だからです。どの項目がどう素晴らしいのか
説明できなければ6点をつけるべきではないように思います。
3.ブラインドでカッピングする
ブラインドとは、カッピングしているコーヒーの情報を隠して行うカッピングのことです。
人間は騙されます。特にカッピングの場合、生産国や地域、農園の名前で
「だいたいこういうフレーバーがありそう」という先入観は敵でしかありません。
個人的な思い出としても、「○○農園のコーヒーはこういう感じだよなー」
とか
「あの地域ってこういう感じだよなー」
という先入観を持ってカッピングをしていい思いをしたことなど1回もありません(笑)。
出来る限りブラインドカッピングをすることが、上達には必要です。
4.誰かと共有する
ひとりだけでカッピングしていると、どうしても基準からズレていきます。
それを防ぐには、様々なカッピングセミナーに出かけていって、
多くの人と意見を共有することです。そうすることでズレていた基準を、
修正していくことができます。
5.ひたすらカップする
カッピングは技術です。練習していくことで上手になります。
下手にごまかさないでください。たくさん恥をかいてください。
プライドは捨ててください。
間違えてもいいですから、なぜ間違えたのかしっかり分析してください。
そして、次のカッピングに活かしてください。
たくさん、たくさん、多くのコーヒーを、多くの人とカッピングしてください。
この辺りのことに注意してカッピングを続けていれば、徐々にどんな抽出のコーヒーでも、
プロファイルを採れるようになってくると思います。
カッピングと、それ以外の抽出の関連性
カッピングによる抽出とそれ以外のフレンチプレスやハンドドリップ、エスプレッソのコーヒーには、抽出によって多少のフレーバーの出方に違いはあるものの、感じられる味にはおおむね相関があります。
カッピングによってコーヒーのフレーバーを捉えていく方法を覚えると(逆に他の抽出からカッピングに立ち戻るのもアリです)、「このコーヒーはこういう味」というイメージができます。そして私は、そのイメージができている人とそうでない人とは、コーヒーを抽出した結果が大きく異なると感じています。フレンチプレスはあまり差ができないのですが、ハンドドリップやエスプレッソのコーヒーは、それが顕著に現れます。
ですから、私はロースターやグリーンバイヤーだけでなく、コーヒーを抽出するバリスタやサイフォにストも、カッピングによってコーヒーのフレーバーを採る術を学んだほうが、確実に抽出テクニックやカップクオリティ向上の役に立つはずだと考えています。
スペシャルティコーヒーは、生豆のクオリティや焙煎のクオリティが高ければいい、というものではありません。
最終的にお客様の口に入るカップ、そのカップクオリティが全てです。
カッピングしようぜ、みんな!
カップクオリティのことを考えた時に、カッピングという技術は切っても切れない関係にあると思っています。
怖がらないで、カッピングの世界に足を踏み入れてみましょう!