「in Season」について、あらためて。

投稿者: | 2011/03/09
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in season
シングルオリジン、テロワールについて触れたら、
あらためてコーヒーの“旬”についての話をしなければならない気持ちになりました。
以前同じような記事を書きましたが、改訂版ということで。
■『in Season』Mission
アメリカのスペシャルティコーヒーカンパニー、Intelligentsia Coffee & Teaは、
『in Season』という新しい概念のコーヒーブランドを立ち上げています。

In Season Coffee – ntelligentsia Coffee & Tea, Inc
ミッションを抜粋します。
私が訳したものを一緒に載せておきますので、そちらもあわせてどうぞ。
“MISSION
Specialty Coffee has it all figured out, right? Direct relationships with growers, careful roasting, baristas pulling perfect shots… we’ve squared the circle. Not exactly, as there is a final missing piece: seasonality.”

ミッション
スペシャルティコーヒーは、「旬」が明らかですよね?
ダイレクトトレードによる信頼関係、慎重なロースティング、
バリスタが完璧なショットを落とすこと…私たちはこれらの問題を解決してきました。
しかし最後の欠けていたピースがあります。シーズナリティ(旬)です。

“Coffee is just like great fruit and vegetables. Most coffee-producing countries have only one specific harvest season each year, and once the coffee is picked from the tree, it begins the inevitable process of slow decline, losing quality with the passage of time. The result is that no matter how great a coffee tastes while in its prime, the day will always come when it loses the very things that made it so tasty in the first place.”

コーヒーは、素晴らしいフルーツや野菜のようです。
ほとんどのコーヒー生産国は、年に一回、特定の季節に収穫期を迎え、そしてひとたびコーヒーが摘み取られると、不可避的に、ゆっくりと劣化してゆく過程を辿ります。つまり、時が経つに連れて品質を低下させるのです。
その結果、ベストな時期にどんなに素晴らしいコーヒであろうとも、その一番美味しかった時期を過ぎてしまう日を迎えます。

“What then does Intelligentsia In Season mean? It means that our coffees are offered only while they are fresh and retain the vibrancy that both nature and the fastidious coffee farmer intended. It means that the coffee offers the same kind of compelling traits it did when we first selected it and brought it to our Roasting Works. The coffee industry has long perpetuated the idea that coffee is a year-round crop without recognizing publicly that the harvest cycles do not allow for this. So you really need to know when a coffee was actually harvested. Selecting your coffees in this way ensures that you are getting them while they are their most delicious.”

インテリジェンシアの「旬」とはどういう意味でしょうか?
これは当社のコーヒーが新鮮で、農園のテロワールとコーヒー農家が意図したとおりに風味特性を維持している、ということを意味しています。
これは、コーヒーを買い付けたときと、当社が焙煎した時と、魅力的な特徴が同じであることを意味します。
コーヒー産業は長い間、収穫のサイクルが許さない、と認めることなく、コーヒーが1年中の作物であるという考えを永続させています。
だからこそ、本当にいつコーヒーが実際に収穫されたかを知っている必要があります。
旬のコーヒーを選択することで、最も美味しい期間にコーヒーを飲めることを約束します。

■コーヒーの「旬」
インテリジェンシアの言うとおり、今までのコーヒーに欠けていた考え方、
そのひとつは確かに、「旬」であるといえるでしょう。
スペシャルティコーヒーにはコモディティコーヒーにはない要素が多くありますが、
これまでどちらの世界でも、コーヒーの旬、というのは忘れられていたように思います。
たとえば日本の喫茶店文化の「いつもの!」という考え方は、常に同じものがある、という考え方が根底にあると推測されます。
ついついブレンドに手が伸びる心理も、新しいものに抵抗感を感じやすい日本人の気質が影響しているのではないでしょうか。
しかしスペシャルティコーヒーは、たとえ同一の農園であっても微妙な標高の違い、区画の違いにより、その風味特性にひとつとして同じものはありません。

ただし、とれたて、届きたてが本当に「旬」かというと、ここは違うと私は考えています。
コーヒーにもよるのですが、パーチメントの状態で寝かせる期間、生豆の状態で寝かせる期間はある程度必要です。
新鮮であればいいかというと必ずしもそうでなく、特にナチュラルのコーヒーは、この寝かせる期間を長めにしないと魅力的な風味が出ず、汚れたような、渋いような新しさからくる味が出がちです。このあたりはさじ加減で、状態を見ながらベストな時をロースターが判断するべきラインなのでしょう。

そのコーヒーの、最も魅力的な瞬間を発見することが、ロースターに求められています。

■ここがすごいよインテリジェンシア
“コーヒーを買い付けたときと、
当社が焙煎工程を行ったときと、
魅力的な特徴が同じであることを意味します。”

COEなどの国際品評会のコーヒーでさえ、「審査会の時にはあったけれど、届いて焙煎してみた時には出ない」という話があるのに(勿論焙煎によって出す・出さない、という選択肢もあるでしょうけれど)、買い付けの時に感じた素晴らしい個性そのままが味わえる、と銘打つのは、かなりの勇気が必要です。それだけ、スペシャルティコーヒーの持っている感動的な味覚体験を、インテリジェンシアが重視している、ということなのでしょう。

「in Season」には現実的な問題もあります。実現するには入港したコーヒーを可能な限り早く自社のロースティングファクトリーまで運び、焙煎し、売る、という仕組みが必要です。そしてスピード、つまり旬を過ぎないうちに売り切ることの出来る販売量も必要です。
また高品質なスペシャルティコーヒーの安定的な供給は、ある程度大量の買い付けとイコールなので、入荷したコーヒーをどれから販売していくか、どれをシングルオリジンで、ブレンドで…という問題はついてまわります。

■日本で、コーヒーの「旬」を楽しめるか?
この試みはアメリカだからこそできるのでしょうか?
実際問題、日本はどうしても、生産国からの距離のハンデがあります。
しかし保存方法も進歩しており、高品質なコーヒーを高品質なまま、
長期間保存することが可能になってきています。

リーファーコンテナ、バキュームパック、グレインプロ、冷凍保存、たとえ距離があったとしても、これらの技術により、従来より格段に新鮮なままコーヒーが日本に届けられています。コーヒー生豆の鮮度の問題は、ここ何年かで劇的に改善したといっていいでしょう。
結果として、数年間保存することも可能になり、アメリカ・ボストンのテロワールコーヒーはある意味で旬にこだわらなくても良い、いつでも素晴らしいものを素晴らしいまま保存し、提供するだけの仕組みを整えています。
そしてワインのように、「〇〇年の□□産」という楽しみ方も将来的にはできるだろう、という立場をとっています。

アメリカと日本と、単純に比べられるものではないことは百も承知ですが、当年のCOEは勿論、そうでなくても高品質なシングルオリジンコーヒーをカテゴリー分けして販売する手法は、これに近いところがあるなぁ、と考えています。
「グラン・クリュ」「ファータイル」「Crop of Discovery」等々。

多少他のコーヒーに比べると値段が高いこともありますが、このクラスのコーヒーは、感動的な味覚体験を与えてくれます。
コーヒーの「旬」、いま、何が美味しいのか?という楽しみ方は、スペシャルティコーヒーに新たな楽しみをもたらすものと信じています。

「in Season」について、あらためて。」への1件のフィードバック

  1. さんきち

    SECRET: 1
    PASS: bad3548be805e0551a88b44db4745fcc
    ソムリエという漫画だったと思いますが、敵役のソムリエが、すごく有名な醸造元のワインなんだけど、あえて出来の悪い年のワインをお客にサーブした、というエピソードがありました。
    主人公はそれにすごく反発したけど、サーブされた当のお客さんいわく、
    「それでいいんだよ。いつだってパーフェクトなわけじゃない。出来の悪い年だって当然ある。でもね。それを知ることによって、このワイナリーの出来の良い年のワインがどんなに素晴らしいものであるか、知ることができるんだ」
    ここまでの懐の深さをもってコーヒーを楽しめると良いなぁ、と、個人的には思います。
    その農園に思い入れたら、出来がよいときも悪いときも応援する。
    (もちろん、評価は評価として、冷静に、第三者的でなくてはいけませんが)
    ちょうど、浅田真央がどんなに成績が悪くても、彼女を応援することに変わりがないように・・・って、ちょっと違うか。

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