趣味柄、そして仕事柄、たくさんのコーヒーに触れるようになりましたが、
そのなかで「グッとくる」「感動的な」コーヒーというのは、あまりたくさんは
ない、と感じています。
もちろん自社の商品も含め、他社さんのコーヒーでも、美味しいコーヒーはあります。
日本は比較的、美味しいコーヒーが広く手に入りやすい国のひとつだというのは、
おそらく多くの人に同意頂けることでしょう。
「美味しいコーヒー」と「感動的なコーヒー」を分ける要因はどこにあるのでしょう?
感動的なコーヒーには、なにかヒミツがあるのでしょうか。
今回はそれを、私の経験から見つけた共通点を手がかりにして、解説してみたいと思います。
Costa Rica – Doka Coffee Estate / andyrusch
「美味しい」「感動的」の基準
Costa Rica – Doka Coffee Estate / andyrusch
最初に「美味しい」と「感動的」の基準を明確にしておきたいと思います。
日常使っている基準のひとつにCOE/SCAJのカッピングフォームがありますので、
それを用いて基準にしたいと思います。
評価項目
クリーンカップ
スウィートネス
アシディティ
マウスフィール
フレーバー
アフターテイスト
バランス
オーバーオール(総合評価)評価基準
4点…普通
5点…良い
6点…素晴らしい
7点…とても素晴らしい
というやつですね。これを用いて各項目5〜6点でまとまるコーヒーが「美味しいコーヒー」
6.5点〜7点でまとまるコーヒーを「感動的なコーヒー」としてみたいと思います。
この時点で「感動的なコーヒー」が多くない、というのは、カッピングの経験がある程度
ある人には想像がつくかもしれませんね。
「感動的なコーヒー」に共通する、コーヒーの生育環境
Matagalpa panorama / skinnydiver
私がいままで「感動的なコーヒー」だと思ったコーヒーの生産地を、エリアごとに
まとめてみたいと思います。
中米
・グァテマラ
ウェウェテナンゴ
シエラ・デ・ラス・ミナス
・ホンジュラス
カングアル
ラ・パス、サンティアゴ・デ・プリングラ
サンタ・バルバラ
・エルサルバドル
サンタ・アナ
チャラテナンゴ
・コスタリカ
タラス
ウェストバリー
セントラルバリー
・ニカラグア
ヌエヴァ・セゴビア
・パナマ
バルー火山周辺地域
南米
・コロンビア
ナリーニョ
ウィラ
・ブラジル
カルモ・デ・ミナス
バイーア
・ボリビア
ヤナカチ
北ユンガス カラナヴィ
アフリカ
・ケニア
ニエリ
エンブ
ティーカ
キリニャガ
・エチオピア
イルガチェフェ
シダモ
・ルワンダ
南部地域
西部地域
念のため付け加えておきますが、上で挙げた地域のコーヒーが全て、感動的な
コーヒーだった、というわけではありません。そんなコーヒーは、上で挙げた
地域でもごく一部です。そしてもちろん、ここに挙げた地域の他にも、感動的な
コーヒーを作ることができる場所もあるはずです。あくまで今までの経験から
記憶をたどって列挙したにすぎません。
その経験の中にはカップ・オブ・エクセレンスに入賞したコーヒーもありますし、
そうでないものもあります。ざっと見て共通している部分は、お気づきの方も
多いと思いますが、「標高の高い地域」ということです。
これはスペシャルティコーヒー興隆の前から言われていたことでもありますし、
コモディティコーヒーにおいても、一般的に標高の高いところで作られたもの
ほど格付けが上になっていることがほとんどです。
しかし、たとえばグァテマラのウェウェテナンゴは標高2,000m近い場所もあり、
明らかに標高が高いといえますが、ニカラグアのヌエヴァ・セゴビアという地域は、
コーヒーの植えられている標高は高くても1,500mまでです。ブラジルのカルモ・デ・
ミナスは、高い所で標高1,300mくらいです。「標高が高い」とはいっても、絶対的な
数字で比べると、実は場所によって大きく開きがある、ということになります。
標高が高いとどうしてコーヒーは美味しくなるの?
ここでいったん話を整理します。
コーヒーが植えられている標高が高いと、なぜコーヒーの風味が良くなるのでしょうか?
それは、昼夜の寒暖差が大きいとコーヒーチェリーの中の種子である生豆(なままめ)が
硬く締まり、味が凝縮されるからだ、といわれています。完熟したコーヒーチェリーが
品質の高いコーヒーには必要不可欠である、というのは半ば常識になりつつありますが、
同じ完熟状態だとしても、気温が高い所で短い時間で成長し熟したものより、気温が
低いところで長い時間をかけて成長し熟したもののほうが、果実の種子であるコーヒー
生豆の味の充実度合いが高いのです。その差がそのまま、コーヒーの美味しさに
関係してくる、ということになるわけです。
つまり、コーヒーチェリーが成熟するのにかかる時間が長くなる要因が何かあれば、
それは標高だけにこだわる必要はない、ということができます。上に挙げた地域の
中には絶対的な標高が他に比べてそれほど高くない地域がありますが、そういった
地域はまさに何か他の要因によって、コーヒーチェリーの成熟する時間が長くかかって
いる可能性が高いのです。そして上に挙げた地域の中には、標高の高さに加えて
合わせて何か他の要因が関連している場所もあるかもしれませんね。それでは次に、
標高の他にコーヒーチェリーの成熟する時間に関わる要因をいくつか挙げてみたい
と思います。
コーヒーチェリーの成熟する時間を伸ばす環境要因
Doka Coffee Plantation / colros
コーヒーチェリーの成熟する時間に関わる環境要因は、標高の他にいくつかあります。
代表的なものを挙げてみたいと思います。
・日照時間
光合成によって得られる栄養分が変わってきます。
得られる日照時間が短いほど、コーヒーチェリーが成熟するのにかかる時間が
長くなります。ただし短すぎると生育不良にもなりますし、生産処理にも影響
してきます。
・平均気温
低いほどコーヒーチェリーが成熟するのにかかる時間が長くなります。
ただし低すぎると霜害のリスクも出てきます。
・霧
日照をやわらげます。また霧が発生することは、昼夜の寒暖差が大きい、
ということも意味します。
他には風の強さや向き、日照の強さなどなど、色々な条件が複雑に影響しあって、
コーヒーの生育環境は形作られていますので、どれかひとつを切り出して議論する
のは正しくありません。そしてコーヒーの場合、焙煎や抽出によって、同じ生豆でも
大きく品質が異なってしまうこともままあります。感動的なコーヒーは、生豆さえ
良ければいい、というものではないのです。
また、コーヒーの生育環境の他に、コーヒー生豆の生産処理によっても、コーヒーの
品質は大きく変わってきます。せっかく良い環境があったとしても、作り方が雑だと
まったく意味がありません。感動的なコーヒーのためには、丁寧な仕事が絶対に必要です。
逆に、環境要因に恵まれていなくても、生産者の効果的な生産管理によって品質を
上げることもできます。結局は生豆の品質を左右するのは、生産者とそれを見出す
バイヤーの関係しだい、ということなのです。
感動的なコーヒーに出会うことは、コーヒーの楽しさのひとつ!
ほんとうに世の中、焙煎豆・生豆も含めたくさんのコーヒーがあります。
そのたくさんの中から選んだひとつのカップが、感動的な美味しさだったら?
たくさんのコーヒーをカッピングしている中に、感動的なカップがあったら?
そんな時私はとても嬉しい気持ちになります。
スペシャルティコーヒーの楽しさのひとつには、こういう宝探し的なおもしろさが
あると思っています。そして宝物が見つかる可能性を高めていくことが、コーヒー
パーソンとしての使命のひとつ、なんじゃないかな、と考えています。
ぜひぜひ、コーヒーとの出会いを楽しんでくださいね!