前回の更新:中南米に広がる“コーヒーさび病” でお伝えしたように、
現在中南米で大流行中の「コーヒーさび病」。
コーヒー生産のことを知っている人にとっては、何よりも恐ろしい病気のひとつです。
NP 2DU colombia 29_lo / CIAT International Center for Tropical Agriculture
さび病耐性のある品種について、前回の記事では書きましたが、ちょっと説明不足の感
があったので、簡単にではありますが、“ハイブリッド”、アラビカ種とロブスタ種の交配
によって、さび病耐性を獲得した品種について、お伝えしたいと思います。
さび病耐性品種
高品質コーヒーで主流の品種であるアラビカ種は、さび病に非常に弱いです。
アラビカ種は熱帯域の高標高地域(目安として1,000m以上)で生育することにより、
地域によって異なった、様々な豊かなフレーバーを発現します。
標高が低い(目安として1,000m未満)地域では、それほど特徴的な
フレーバーというのは、あまり見られることはありません。
変わってロブスタ種のコーヒーは、苦味のあるフレーバーによって敬遠されがちですが、
標高が低い地域でも生育し、収穫量がアラビカ種に比べて多く、さび病に対する耐性がある、
という特徴があります。
この特徴を活かして、かつてさび病の流行によって壊滅的な打撃を受けた東南アジア地域での
コーヒー栽培は、ロブスタ種に置き換えられることになりました。
現在では一部を除き、東南アジア地域のコーヒーはほとんどロブスタ種です。
アラビカ種のフレーバーとロブスタ種の収穫性・耐病性を両立させることはできないか?
そうすれば時折流行するさび病に怯えることなく、コーヒー栽培を続けることはできないか?
過去のさび病流行のことを考えれば、このような発想がおこるのは当然のことと思います。
実際、アラビカ種とロブスタ種を交配することによって、さび病耐性をもたせた品種がいくつか
作られています。
さび病に対して早くから対策をとっているコロンビアは、徐々にさび病耐性のある交配種、
通称ハイブリッドへの植え替えを進めている産地です。
ポピュラーな品種は“ヴァリエダ・コロンビア”、そして“カスティージョ”。
この2種類の品種について、お話したいと思います。
ヴァリエダ・コロンビア
ヴァリエダ・コロンビアの説明をする前にまずは「ハイブリッド・デ・ティモール」
について触れなければなりません。本来アラビカ種とロブスタ種は交配させることが
できないのですが、偶然変異したロブスタとアラビカが交配したことによって、この
ハイブリッド・デ・ティモールは生まれました。さび病耐性を獲得している、
アラビカ種と交配することができる品種の誕生でした。以降アラビカ種とロブスタ種の
交配は、このハイブリッド・デ・ティモールを用いて進めていくことになります。
ヴァリエダ・コロンビアは、ハイブリッド・デ・ティモールとカトゥーラ種を交配した
「カティモール」とカトゥーラ種の交配によって、コロンビアで誕生した品種です。
ハイブリッド・デ・ティモールをアラビカ種と交配させていくことで、さび病耐性を
持たせたまま、コーヒーの風味をアラビカ種に近づけていったかたちですね。
ヴァリエダ・コロンビアは単に「コロンビア」とも呼ばれています。
耐病性の面から、現在コロンビアで主流の品種といえますが、アラビカ種である
カトゥーラやティピカと比べると風味に劣る、という評価が多く見られます。
カスティージョ
カスティージョは、ヴァリエダ・コロンビアをさらにアラビカ種に近づけた品種で、
ヴァリエダ・コロンビアを選別、6世代にわたって交配し、作られました。
ヴァリエダ・コロンビアからカスティージョへの植え替えが現在進みつつあり、
100%カスティージョではないにしろ、カスティージョの入ったロットは
カップ・オブ・エクセレンスに入賞している実績があります。
2010年の1位、ラ・ロマも、カスティージョとカトゥーラの混合ロットでした。
コロンビアのコーヒーは一時ヴァリエダ・コロンビアに植え替えが進んだことで
「品質が落ちた」と言われてきたのですが、カップ・オブ・エクセレンスでの結果、
カスティージョの登場、そしてカスティージョを含んだロットの入賞によって、
かつての「コロンビアマイルド」の名誉を取り戻しつつあります。
ロブスタ種とのハイブリッドを敬遠する風潮も、ヴァリエダ・コロンビアの不評が
招いたといえるのですが、さすがコロンビア、品質に対してのこだわりを見せています。
さび病流行による、栽培品種に起こる変化
今年のものは地域によるようのですが、気候的な条件からか、一般ににさび病が流行しやすい
のは標高の低い地域です(気候変動により高標高地域でも流行の可能性はあります)。
さび病による被害を避けようとするならば、耐病性のあるハイブリッド品種へ植え替えを
進めていくであろうことが予想されます。
さび病によってコーヒー生産ができなくなるのは生産者にとってすなわち収入が
減ってしまうか、最悪の場合、なくなってしまうことを意味しますので、
それはまったく当然の原理だと思います。
標高の高い地域はどうでしょうか。
さび病の被害が考えにくいか、被害があったとしても少なく、農薬散布で対処可能な
地域の場合は、アラビカ純粋種の栽培を継続するところも残るでしょう。
高品質なコーヒーを高い価格で買ってくれるバイヤーと関係が築けている生産者は、
その傾向があるように感じています。ただし新型さび病についての懸念は残るので、
区画の一部にハイブリッド品種を植える可能性はあるでしょうね。
昨年から今年のさび病の流行の影響で、ハイブリッド品種への植え替えがこれまで以上に
進むことは、おそらく避けられません。気候変動とはまた違った要因で、これまでの
「あの国のコーヒーの味」は変わっていってしまうのかもしれません。
現在各国のスペシャルティコーヒー関係者の方々が中米地域を訪問されています。
ナマの情報が徐々に入ってきていますので、ひと通り情報が入り次第、
中米のさび病について、またお伝えしたいと思います。