『カリスマコーヒー職人の行き着いた先は? Handsome Coffee Roasters』を読んで、ちょっと考えたこと

投稿者: | 2013/08/18
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インターネットをしているといろいろな記事が引っかかってきておもしろいのですが、
以下の記事↓を読んで、ちょっと前々から考えていたことが再燃してきたので、
現時点での私のコーヒー抽出における考え方というのを記しておこうと思います。

カリスマコーヒー職人の行き着いた先は? Handsome Coffee Roasters

Hot LA day. Hot LA coffee. #handsome
Hot LA day. Hot LA coffee. #handsome / BitBoy

Handsome Coffee Roasters

まずはハンサム・コーヒーロースターズについて。
Handsome Coffee Roasters
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IMAG0298 / pcphoto

ハンサムは数年前にロサンゼルスにオープンしたロースターズカフェ。
創業メンバーはタイラー・ウェルズ、マイケル・フィリップス、クリス・オーウェンス。
3人とも、元インテリジェンシア・コーヒー&ティーのメンバーで、独立して立ち上げた
かたちになっています。

中でもマイケル・フィリップスはWBC2009ロンドン大会のワールドチャンピオンで、
かなりのイケメンです(笑)。
日本で刊行されたコーヒー特集雑誌でも度々紹介され、ご存じの方も多いかもしれません。
今ではハンサムはロサンゼルスはもとよりアメリカ全土で評判の、美味しいコーヒー屋さんとして
認知されているようです。いわゆるサードウェーブの旗手として扱われることもあるようですね。

かっこ良くて、かっこつけていなくて、気さくで、フレンドリー。
そんなイメージがびしばし伝わってきます。

 

ハンサムはハンドドリップしない?そしてその理由

紹介した記事で、私の心に引っかかった箇所を引用したいと思います。

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あれ?一瞬目にとまったドリップマシーンを見てびっくり。実はここ、インテリジェンシアのスタッフが作ったお店でありながら、ハンドドリップじゃないのです。これには絶対に理由がある!と思い、カリスマ職人ナイスリーくんに聞いてみると、、、

「ハンドドリップはコーヒーを入れる人によって味に差が出てしまうんだよ。だから味が安定しない。常に確実に美味しいコーヒーを出せるお店にするには、ミルしたてのコーヒー豆を使って落として、その後はコーヒーの保温時間と温度を常に正確に計って新しいコーヒーを提供して行くことがベストだというところに行き着いたんだ。そのために保温マシンは小さい物を常に4台稼動させているんだよ。」

ちょっと待って下さい。
日本で色んなお店の色んなコーヒーを飲んできた私の感覚からすると、エスプレッソほど「淹れる人によって味に差が出る」飲料はないと思っていたんですけれど…?エスプレッソは同じメッシュ(挽き目)のコーヒーを同じ量、同じ詰め方で抽出しても、淹れる人が違うとまったく違う味になってしまうことが多々あります。特にシングルオリジン(単一農園・地域)のコーヒーを使ったエスプレッソはなおさらです。
おそらく日本人の私が考えていることと彼らの考えていることが違うせいだと思うので、ちょっとエスプレッソの味作りについて、簡単に示してみたいと思います。

 

美味しいエスプレッソはハードルが高い

Handsome Coffee Roasters
Handsome Coffee Roasters / simon.wright

スペシャルティコーヒーを使ったエスプレッソを前提で、以下少しお話しようと思います。
 

1.素材

エスプレッソの「微粉状にまで細かく挽いた豆を高圧で少量抽出する濃厚なコーヒー」という性質上、エスプレッソにおいては素材が超重要です。具体的にはクリーンカップという、コーヒーのフレーバーを阻害する余計な味が無いことが大前提です。そして、良質なフレーバーやアシディティの質、スウィートネスがあればいうことありません。これはエスプレッソの抽出特性で、コーヒーの風味を濃縮したコーヒーになるため、悪いところがあるとそれも強調してカップに落としてしまう、という特徴によります。
 

2.焙煎

上述の、「エスプレッソはコーヒーの風味を濃縮したコーヒー」という抽出特性によって、焙煎によるコーヒー豆へのダメージ(焦げや辛味)はエスプレッソの味へのダメージに直結します。したがって、そのお店の焙煎(お店が使っている豆の焙煎)が適切な状態で仕上げられていることが、美味しいエスプレッソには不可欠の条件と言えます。
 

3.抽出技術

さて、最後はやっとバリスタです。いい生豆を適切に焙煎した豆があっても、バリスタが安定して20〜30秒の間に25〜30ccのエスプレッソを抽出する技術がなければ、美味しいエスプレッソをお客さんに楽しんでもらうことはできません。エスプレッソを抽出するための手順や仕組み、調整の方法について熟知し、コーヒーを抽出することのできる技術が必要です。

まずはこの3つの条件を満たす、ということが、美味しいエスプレッソを抽出するためには欠かせません。どれ一つ欠けても、決して美味しいエスプレッソを味わうことはできないでしょう。そして、これらを満たして始めて、コーヒーの持っているフレーバーをいかにカップに表現するか、とか、バリスタが自分にしか出せないエスプレッソを追い求める、とか、自分自身のパッションをコーヒーに込める、とか、そういう話になってきます。バリスタの個性の表現、というやつですね。今挙げた3つのポイントをきっちり押さえていないと、バリスタの個性なんてものは決してお客さんに届きません。

この点で、エスプレッソ抽出は非常に難しいもの、と考えることができるといえます。
一方でハンドドリップもこれと同じような側面があります。
同じように素材が重要ですし、安定して抽出する技術が必要です。
ただエスプレッソに比べればコントロールに多少余裕がありますし、
トレーニングもしやすい抽出方法だと考えています。
(これは日本人的感覚かもしれません。)

このように、実はコーヒー抽出においては、根本的に誰もが同じ味で同じようにコーヒーを抽出することは不可能、ということなのです。ある程度の許容の幅があって、それに収まっていればだいたいOKですし、その許容範囲は人によって(抽出する人も、味わう人も)様々である、といえます。件のハンサムの件は結局、どこに注力するのか、という部分の話で、方便なんじゃないかなぁ…という気が若干しています。
だからといってハンサムがユニークで素晴らしいコーヒーショップなのは変わらないわけですし、美味しいエスプレッソを出し続けていくのでしょう。

 

美味しいコーヒーを抽出するのに必要なこと

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Handmade & D*mn Handsome @revolver_coffee P2146006.JPG / roland

抽出だけではなく、焙煎でも同じことがいえると考えているのですが、結局こういうところは
最終的にはイマジネーションの世界で差がつく、と思っています。それは、カッピングでも
フレンチプレスでのテイスティングでも何でもいいんですが、「このコーヒーにはこんな
フレーバーがある」とか、「こんな雰囲気の味だ」とか、そういうイメージがあるかないか、
ということです。
もっと突っ込んだ所で「このコーヒーはこんな環境で栽培されている」とか「こんな生産処理だ」
とか、「こんな生産者が作っている」とか、そういう情報も実は大事なんじゃないかな、
と私は考えています。

若干オカルトじみている気がしないでもないですが(笑)、狙っているフレーバーが「あるかも?」
と思って抽出するより「あるはず!」と信じて抽出したほうが確実に私は出ると思いますし、
あまり情報(味や生豆の情報)がない状態でコーヒーを抽出するのは、私は正直苦手です。
逆に言えば、技術は練習すれば一定以上のレベルにほとんど誰でも届きますし、情報は調べたり
聞いたりすれば手に入るのです。たかだかコーヒーではありますが、簡単にできることなので
(練習はちゃんとした人に習ってちゃんとしたやり方が望ましいですが)、練習すればいいし、
知りたいならば聞けばいいんですよね。
そして私は、できるならばそんな人の手を経たコーヒーを飲んでいたいですし、そんなふうにして
出されたコーヒーって、記憶に残る特別な一杯になり得るものだと思うのです。