さて、これまでコーヒー生産地での生産者の取り組み、そしてそこに関わるロースターの取り組みについて主に話してきました。今回は焙煎についての話をしたいと思います。
■焙煎
コーヒー生豆の状態では飲用に適しません。焙煎してコーヒー焙煎豆にし、粉砕、抽出しないとコーヒーとしての飲用はできません。
そしてこの焙煎の工程は、顧客の口に入るコーヒーの味を決定するのに、かなり大きな要因になります。
■焙煎度合い
ざっくりと浅煎りから深煎りまで、いくつかの焙煎度合いが存在しますが、個人的な好みから言えば中煎りあたりが非常に好みです。コーヒーの持っている酸味、甘味、香りの要素が程よいバランスで、液体にあらわれていることが多いです。もちろん焙煎の進め方も非常に重要で、それが上手くいっていることが前提です。進め方さえ間違っていなければ、深煎りにしていても非常に魅力的なコーヒーはあります。
通常、ロースターさんたちは販売前に何度かサンプルローストして適切な焙煎度合いを決定します。
そして適度なところでそのポイントを決定し、製品となるコーヒーを焙煎する、というのが一般的です。
■古臭い焙煎の議論にさよならを
ここで、焙煎の細々したところに話を広げるつもりはありません。思うに焙煎とは、コーヒーの持ち味をいかに表現するか?ということだと思っています。そして私は、焙煎されたコーヒーから、コーヒーの育った土地でしか感じられないフレーバーや酸味、甘味、マウスフィールといった要素をカップのコーヒーから感じるとき、とても幸せな気分に浸ります。
個人的に最も残念なのは、コーヒーを焦がした苦味がでている時です。焙煎を深くしていくと徐々にコーヒーは焦げ、不快な苦味を発生させていくことがあります。舌にピリッとくる苦味です。そういった余計な要素は、本来コーヒーの持っている豊かな風味を殺している、と感じることがほとんどです。
もちろん、焙煎が深ければ深いなりに、心地よい絶妙な苦味のポイントで止めているコーヒーもあり、逆にそういったコーヒーはそのローストポイントでしか感じられない風味を持っています。
ここで大事なのは、こういった焙煎の議論を、スペシャルティコーヒーを土台にして行う場が必要だ、ということです。私も無意識に、スペシャルティコーヒーであることを前提にお話ししていますが、スペシャルティコーヒーとはどんなものか?スペシャルティコーヒーを楽しんでもらうにはどうしたらいいか?そんな気持ちで記事を書いています。
すでにSCAJでは、ローストマスターズという取り組みを開始していて、年に一度大規模な合宿を行い、焙煎コンペティション等を通して、焙煎技術を切磋琢磨するための舞台を整えています。しかしこういった情報共有が日本のコーヒーの世界にはまだまだ少ない、と感じています。
■コーヒーの楽しみ方の多様性
私は比較的中煎りの、かつシングルオリジンのコーヒーが好きなのですが、それはコーヒーの持っている風味特性を心ゆくまで楽しみたいからです。コーヒーが本来持っている風味特性を余すところ無く表現しているコーヒー、そんなコーヒーに出会うと感動すら覚えます。
言うまでもなくコーヒーには多様な楽しみ方が存在します。私のような視点はむしろマイノリティでしょう。しかしこういった楽しみ方をする人が増えて、よりコーヒーの素性にふれたいと願う人が増えてきたとき、より焙煎によるコーヒーの差異がクローズアップされてくるのだろう、と考えています。
あなたの飲むコーヒーが、すこしでもあなたにとって心地のいいものでありますように。