すでにだいぶ日本でも定着した感のある言葉、“サードウェーブ”。
コーヒーのムーブメントにおける、「第3の波」の通称です。
最近色んな所でこの言葉を目にしたり耳にしたりすることが増え、しかも
なんとなーく意味合いが曖昧なまま使われているような気がしますので、
ちょっと自分なりにまとめてみようかな、と思います。
Intelligentsia Coffee -Frank, Austin / swanksalot
サードウェーブの話をするまえに、簡単にですが、まずは以下にファーストウェーブ、
セカンドウェーブについて記しておこうと思います。
アメリカにおけるコーヒームーブメント
■ファーストウェーブ:第1の波
1970年代までの、大量生産・大量消費のコーヒーの時代。
コーヒーは味よりも経済効率を重視し、品質の低下から「コーヒー離れ」を生んだ。
■セカンドウェーブ:第2の波
ファーストウェーブへの揺り戻しから、より高品質なコーヒーを提供しよう、という
動き。この流れの後半が、スターバックスがエスプレッソビバレッジを出し始めた頃。
エスプレッソ系ドリンクを出すインディペンデント系ロースター、カフェ興隆の時代で、
コーヒーは味を重視する傾向に。
と、まぁかなり大雑把な区分だとは思います(笑)。
だいたいがこれ、アメリカのコーヒー文化の話です。
ですので、日本のコーヒームーブメントとはまた違いますし、もっと細かく区切ることも
できるでしょう。「スペシャルティコーヒー」という高品質コーヒーの概念が広まったのは、
概念の提唱は1975年で、消費者からの実感としては90年代に入ってから〜2000年代前半、
といったところでしょうか。
スペシャルティコーヒー、という言葉・概念が広まりつつあった90年代に端を発するのが、
サードウェーブ:第3の波、ということになります。90年代に入って、コーヒー生産国で
高品質コーヒーの生産を推進するためにスペシャルティコーヒー協会が設立されてきた、
ということもあるでしょう。そこらへんの主導は、SCAA、アメリカスペシャルティコーヒー
協会が相当力を入れてやっていたようですね。
いずれにしても、「高品質コーヒーは消費者からの要請だ!」というのがその動きの原動力
だったのでしょう。
サードウェーブ、その本質
Coffee sorters Counter Culture Durham NC 189 / bobistraveling
アメリカのサードウェーブ・コーヒーの旗手として挙げられるのは3社。
1.カウンター・カルチャー・コーヒー(ノースカロライナ)
2.インテリジェンシア・コーヒー・アンド・ティー(シカゴ)
3.スタンプタウン・コーヒーロースターズ(ポートランド)
創業の地も三者三様で、コーヒーの味作りもそれぞれ違いはありますが、これらの会社には
共通点があります。それは、スペシャルティコーヒービジネスを、生産者とのダイレクト
トレード(直接取引)に基づいて行なっている、ということです。
この点がそれまでのコーヒービジネスとは全く違う、画期的なことだったのです。
サードウェーブ以前のコーヒー流通
簡単に示すと以下の様になります。
1.生産者
↓
2.生産国の生産処理業者・生豆輸出会社
↓
3.消費国の生豆輸入業者
↓
4.消費国コーヒー会社
このモデルは、コーヒー会社や輸入業者がまとまった量のコーヒー生豆を確保するには
役立ちますが、コーヒーの品質が一定以上になりにくいのと、中間業者の利益確保のため、
コーヒー生産者からの買取価格が安くなりがちで、いわゆる「買い叩いている」構造に
なっていたのが問題でした。
生産者は儲からないのに消費国(かつての宗主国)のためにコーヒーを作っていたのです。
そのため処理、選別に手間をかけた高品質コーヒーを作るという考え方そのものがなく、
経済効率を重視したコーヒー生産となり、結果品質の低下、消費者のコーヒー離れを
生むこととなります。
ダイレクトトレードのコーヒー流通、そのメリット
Navio cargueiro sai de Salvador sem escala para Ásia / Fotos GOVBA
従来のコーヒー流通の流れに対して、ダイレクトトレードはこうです。
1.生産者
↓
2.生産国の生産処理業者/輸出業者
↓
3.消費国のコーヒー会社
また、生産者がドライミル(パーチメント保管〜脱穀〜輸出できる設備)を所有している
ケースは、
1.生産者
↓
2.消費国コーヒー会社
という、まさに直接的なコーヒーの取引が行われます。
これにより、コーヒー会社のバイヤーが直接産地に赴いて買い付けする必要が生じますし、
生豆の輸入、通関の手続きや在庫保管のリスクをコーヒー会社が負う必要があります。
しかし、直に生産者とコミュニケーションをする機会があるために、コーヒーの品質向上
のために効果的な施策を打てますし、生産者にとってもコーヒーの品質アップが
そのままコーヒーの価格アップ、すなわちコーヒー生産者の収入アップ、生活の向上に
つながりやすいのです。
ダイレクトトレードにおいて大事なこと
コーヒーの生産地に赴いて、コーヒーを買い付けしていればダイレクトトレードかというと、
それは少し違います。ダイレクトトレードにおいて大事なことは、
「生産者の手取りがどれくらいか」ということを把握することです。
コーヒーの買い付け価格には、実は色々と手数料が乗っかっています。
生豆の価格(生産者の手取り)意外にも、ドライミルでの脱穀、保管費用、コーヒー生豆を
パッキングする包材の費用、ドライミルから港までの輸送費用などなどなど。
生産者が様々なトライアル(例えば新しい品種を植えたり、生産処理施設を新設したり)を
行ったならば、それを踏まえて、投資回収のためにプレミアムを上乗せして払うケースも
あるでしょう。
コーヒーがお客さんの手にわたるまでに、どこでどのようなコストが、どれくらいかかって
いるか、ということを正確に把握し、コーヒーの品質に対して的確な買い付け価格を提示できる
こと、それがほんとうのダイレクトトレード、ということです。
サードウェーブのイメージ
翻って、メディアで色々と紹介されているサードウェーブのスタイルにはどのような
ものがあるでしょうか?いくつかの共通点があると思いますので、少し挙げてみましょう。
Stumptown Annex daily cupping / davidburn
・シングルオリジン
“ストレート”という言葉よりも、こちらを好んで使っているケースが多いです。
どこの国の、どの地域の、どんな生産者が、どのようにして作ったコーヒーか、
ということがパッケージからわかる場合もあります。
・選べる抽出
エスプレッソは基本です。
2種類かそれ以上のコーヒーから選んでエスプレッソドリンクを作ってもらえる
お店もありますし、エスプレッソのほかにフレンチプレス、エアロプレス、
ハンドドリップ、サイフォン等、好みに応じてコーヒーを選べることもあります。
・腕の立つバリスタ
大会で好成績を残すような高い技術のあるバリスタがいたり、
そうでなくとも美味しいコーヒーを抽出する技術・知識のある、専門的な
スタッフがいることが多いです。
・中煎りのラインナップが充実
苦味よりも酸味や甘味にフォーカスした、キャラクターのはっきり出る
焙煎度合いで焙煎したコーヒーのラインナップが充実しています。
・パブリックカッピング
販売中や、販売予定の自社のコーヒーを使ったテイスティング会を定期的に
開催します。
実はこれらのサービス提供は、上述したようなダイレクトトレードをやっていることで
手に入るようになった個性豊かな高品質コーヒーを、効果的にお客さんに伝えるのに
効果的な手法、ということができます。
ですので、一般的に「サードウェーブ的」として見られているものの多くは、本来の
サードウェーブ・ビッグ3が行なっている「ダイレクトトレード」という本質からは、
少し離れてしまっていることが多いのです。
時代はすでにフォース・ウェーブ?
サードウェーブによって手に入るようになった高品質コーヒー、スペシャルティコーヒー。
ダイレクトトレード以外の手段でも、もちろん手に入るようになっています。
サードウェーブの先駆者たちが取ってきたスタイルを追いかけるようにして、
サードウェーブ・フォロワーとでもいうべき、スタイリッシュで、しかもコーヒーが美味しい、
そんなお店がアメリカでも、日本でも、世界中で少しずつ増えてきました。
そしてそれはすでに、「フォース・ウェーブ」と呼ぶべきだったのかもしれません。
ダイレクトトレード・スペシャルティコーヒーによって、コーヒーの世界はさらに
広がり、ドラマティックで、ワクワクするようなものになりました。一杯のコーヒーの
向こう側に、そのコーヒーを作った人のことをリアルに想像できる、そんなコーヒーの
たくさんの新しい物語と、コーヒーそのものの美味しさに、まさしく私は魅了されています。
素晴らしいコーヒーを作る生産者は、コーヒーを作ることによって今よりも楽な生活が
できるようになるべきだし、素晴らしいコーヒーを作ることが、コーヒー生産者の希望で
あるべきだと思っています。そのためにカップ・オブ・エクセレンスはありますし、
ダイレクトトレード・スペシャルティコーヒーの意義はそこにあるのだと思います。