コーヒーの生産処理は、ナチュラル、パルプトナチュラル、フリィウォッシュトのいずれかに該当する生産処理で生産されていますが、スペシャルティコーヒーにするためには、ただこの工程をとっているだけでは十分ではありません。素晴らしい風味特性をたたえたコーヒーだけ選び抜くための仕組みによって、選別していく必要があります。
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生産処理上の注意点
1.チェリーは熟しているか?
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生産処理工程をただ取ればよいというものではありません。コーヒーの木の開花は一定期間に複数回起こる事もあり、枝によってチェリーの熟度がまちまちであることがほとんどです。完璧に熟したチェリーを選別するピッカー(収穫労働者)の存在やピッカー自身のモチベーションや意識、それに支払うインセンティブによって、集まるチェリーの熟度の揃い方は変わってきます。機械収穫の場合も、機械の設定、時期によって熟度はばらつきます。
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↑これはグアテマラ、エル・インヘルト農園の熟練したピッカーの仕事ぶりです。
素晴らしいですね。
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↑収穫期の終りには未熟なチェリーも多く混じります。
エルサルバドルでの風景。
集まったチェリーを選別する仕組みも重要です。大規模な処理場(ウェットミル)では、収穫したチェリーを水流により過度に熟しているものとそうでないものを選別する仕組みと、果肉を除去する際に熟しているものだけ果肉が剥けるようにする仕組みをセットで使用している事が多いです。ブラジルはこの仕組みによってスペシャルティコーヒーの質がかなり良くなったとのことです。
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↑これはエル・インヘルト農園。
集まったチェリーを手で選別しています。
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↑こうして熟したチェリーのみ、生産処理に回していきます。
熟していない未熟なチェリーから生産されたコーヒー豆は渋味があったり甘みに欠け、酸の質も単調であることが多く、スペシャルティコーヒーの条件を満たしていないことがほとんどです。熟したコーヒーチェリーのみで作られたコーヒーは粉にした時点で甘く香り高く、素晴らしいコーヒーであることを予感させるものが多いです。
2.生産処理場やパーチメントは清潔か?
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↑エル・インヘルト、注水を待つパーチメント
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↑エル・インヘルト、醗酵中のパーチメント
たとえば醗酵槽が清潔でない場合、醗酵過程において余計な酵素反応が起こることにより化学薬品臭が発生することがあります。そういった薬品臭があると、カップオブエクセレンスでは評価の対象から外されます。同様にスペシャルティコーヒーとして認められる質の高さは得られないことがほとんどです。
その他前回処理したコーヒーが残っていたりしても、そのコーヒーの醗酵だけ進んでいると、同様の良くない風味が出ることもあります。
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↑エル・インヘルトの乾燥場。
一定時間ごとに攪拌して、乾燥状態を均一に保ちます。
たとえば乾燥場が清潔でない場合も、醗酵槽と同様、余計な酵素反応が起こったり、バクテリアの侵入によって生豆が変質したりすることがあります。この場合も化学薬品臭が発生することに繋がります。乾燥状態を一定にするため、乾燥場ではコーヒーを一定時間ごとに人力または機械、動物の力を借りて撹拌しますが、それが不十分でも同様のことが起こります。
最近はコンクリートやレンガでできた乾燥場の他に、高床にしてネットを張った通称アフリカンベッド、サスペンデッドパティオによりコーヒーを乾燥させている農園も増えてきました。またある程度水分が抜けた後は機械による乾燥により水分を抜く、天日と機械を併用する乾燥も一般的になりつつあるようです。
乾燥させる際も、生産処理を抜けてはきたけれど品質の劣るもの、変質してしまっているものもあるため、最後まで気が抜けません。乾燥場に移した後もその様なパーチメントが混じっていないか、人や機械の手によってチェックする事が必要です。もちろんこういったことに関してもコストがかかってきます。
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↑エル・インヘルト。
醗酵の終わったパーチメントを比重により選別し、良いものだけ残します。
3.生産処理過程ではじかれたコーヒーはどうなるのか?
コマーシャルコーヒーとして処理されていきます。
どうしても生産処理したコーヒーの全てがスペシャルティコーヒーになるわけではないため、スペシャルティコーヒーとして売りに出さず、国内消費用やコマーシャルコーヒーとして売っていくことも、農園の経営には必要なことです。
4.生産処理過程の廃棄物はどうなるのか?
農園にもよりますが生産処理過程で出るゴミ、除去した果肉や廃液は堆肥になったり、浄化して自然に帰すなど、環境に留意した処置を取っている農園もあります。そうした農園はレインフォレストアライアンスなどの認証を取っていることがあります。周辺環境と不可分の関係にあるコーヒー栽培において、そういた取り組みは評価されてしかるべきだと個人的には思います。
まとめ
(via from Terroir Select Coffees – Preparation)
これら生産処理工程、またコーヒーの選別には、とてつもないコストがかかります。
そのコストは生産国の賃金水準が上昇すれば追随して上昇し、そのままコーヒー生豆の価格に反映されます。
価格交渉の際に不当に値切ると、その差分のコストは生産処理工程にコストを掛けないことによって回収する、という手段をとることがほとんどのため、コーヒーのクオリティが下がる可能性があります。高品質なコーヒーを手に入れようとする場合はある程度お金に糸目をつけない、という立場も必要なことがあり、今回ほとんどの画像の引用元としているアメリカのスタンプタウンというロースターは高品質なコーヒーに対して金銭を惜しまないことで有名です。しかしそれは同時に、バイヤーの「高品質なコーヒーを手に入れたい」というひとつの信念に基づいており、なんら不当に評価されるべきものではありません。
高品質なコーヒーを手に入れるためには、こういった写真が物語るように、実際に現場に足を運び、農園主と品質や価格についてじっくり話し合う時間を設け、高品質なコーヒーに対する考え方を共有することが何よりも重要です。
コーヒーは農作物のため、作り手の思いが如実に品質に現れてきます。結局は作る人と求める人、人と人との関係が、素晴らしいコーヒーの出発点になるのです。
たくさんの人の手を経て日本に届いたスペシャルティコーヒーを味わうたび、私はこうした人たちを思わずにはいられません。どうかこの先も、こんな素晴らしいコーヒーと出会いたい、という気持ちになります。
スペシャルティコーヒーの生産に関わる人達に尊敬と感謝を。